Musicadentro

第57号 (01/06/2003)

そろそろ梅雨入りも近くなってきましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?3月の BMG Ricordi のプログレ紙ジャケシリーズと4月の Magma/Grog レーベルの紙ジャケ化の流れを受けて、自分の中では久々にイタリアン・ロックがブームになっているため、プログレ系の作品が多くなっています。とは言え今回の目玉は滑り込みで間に合った Baglioni の新譜です。

アルバム・カバー

アーティスト名 / アルバム・タイトル (リリース年) レーベル名, レコード番号. (収録曲数)

Sono

Claudio Baglioni / sono io l'uomo della storia accanto (2003) Columbia, COL 512019 2. (全13曲)

イタリアを代表するベテラン・カンタウトーレ Claudio Baglioni のオリジナル・アルバムとしては約3年半振りとなる最新アルバム。本作では久々にオーケストラを大々的にフィーチャーしたアレンジが施され、開放感のあるイタリアの陽光を感じさせる作品に仕上がっています。1曲目のタイトル曲 "Sono io" から乗りのいいアップテンポな曲にややしゃがれた彼の歌声が朗々と響き渡る Baglioni 節が冴え渡っています。語りかけるように歌われる "Tutto in un abbraccio" では彼のヴォーカルを包み込むようなストリングスが哀愁を感じさせる絶妙な効果を生んでいます。アップテンポの"Grand' uomo" では彼らしい畳み掛けるようなヴォーカルと艶やかなストリングスがスリリングな絡みを聴かせてくれます。彼自身の奏でるピアノの弾き語りによる "Patapàn" ではシンプルながらも囁きかけるようなヴォーカルが染み入るような哀感を感じさせます。いかにも南欧といった哀愁のあるメロディが印象的な "Quei due" では胸を掻きむしるようなアコースティック・ギターの爪弾きと相まって切なくなるような叙情性が醸し出されています。作品全体を通して全てのイタリア・ファンの納得がいくような素晴らしい傑作と言っていいでしょう。初回盤はブックレットのものとはデザインの異なるスリップ・ケース入りとなっています。

Dooah

Consorzio Acqua Potabile (CAP) / Il Bianco Regno di Dooah (2003) Robin & T. Records, RBN 001. (全10曲)

'70年代から活動を続けるシンフォニック・ロック・バンド CAP の5年振りとなるサード・アルバム。メンバーは前作までのツイン・キーボードの片割れが脱退し、替わりに女性管楽器奏者が加わった Maurizio Mercandino (vo), Chicco Mercandino (g), Gigi Secco (b), Massimo Gorlezza (g), Luca Bonardi (ds), Romolo Bollea (key), Silvia Carpo (recorders & cho), Maurizio Venegoni (wind-syn) の8人編成で、大編成を生かした緻密なアンサンブルに基づくパノラマ・ワールドを展開しています。本作は架空の王国をテーマにしたトータル・コンセプト・アルバムとなっており、イタリアン・シンフォニックの王道を行く作品となっています。子供たちの歌声で始まる "Intro" から木管系の柔らかな音色が印象的で、続く "Opener" の畳み掛けるリズムとそれに絡むフルートの音色が早くも次の展開を期待させます。そして、イタリア然としたメロディ・ラインを持つヴォーカルがそれに続くと最早何も言うことはありません。緻密な構成力に絶妙なアレンジ、確固とした演奏力に魅力的なメロディとイタリアン・ロックの現在形として珠玉の出来となっています。ラストは20分におよぶ組曲 "Il regno" で、迷宮のように入り組んだめくるめくシンフォニック・ワールドが堪能できます。

Discendenze

Ancestry / Discendenze (2003) Mellow Records, MMP 430. (全6曲)

新人プログレ・バンド Ancestry のデビュー・アルバム。Yes や Genesis を想起させる正統派シンフォニック・サウンドにイタリアらしいたおやかな歌が加わった小気味のいい作風が特徴となっています。バンドは Fabrizio Sicuteri (vo & Key), Fabio Venturini (g &vo), Federico Ruoppolo ds), Maurizio Bellofiore (b) の4人編成で、作曲はバンドの共作で作詞は Fabrizio と Federico の2人が担当しています。オープニングの17分に及ぶ組曲 "I colori dell'età sorgente" から壮大なキーボード・オーケストレーションにタイトなリズムが絡み、Hackett 風のギターが活躍するマニア垂涎の展開に歌心溢れるヴォーカルが挿入されるオリジナリティを感じさせるスタイルを確立しています。"Nuova opera" では畳み掛けるリズムの上を朗々としたヴォーカルが乗り、ギターとキーボードによるテクニカルなアンサンブルがバックを盛り上げています。7分に及ぶインストの "Oasi" ではアラビア的なコーラスがバックに流れ、Hackett 風のギター・ソロとの見事なコラボレーションを演出しています。"Labirinto" と "Verso l'esterno" では同じピアノによるミステリアスなテーマが繰り返し用いられ、作品のトータル性を感じさせる作りとなっています。ブックレットには各曲をイメージしたイラストを背景にした歌詞が記載されており、曲のイメージが分かり易くなっています。新人バンドのデビュー作としては特筆すべき出来となっていて今後の成長が楽しみです。

LaPiazza

Rondò Veneziano / La Piazza (2002) Baby Records International, BR 25006-2. (全14曲)

Le Orme などのプロデュースで知られる Gian Piero Reverberi 率いる Rondò Veneziano の最新アルバム。ほぼ全曲 Reverberi と Ivano Pavesi の共作で、Reverberi がプロデュースに編曲・指揮とあいかわらず多岐に渡って活躍しています。今回はドラムが打ち込みでギターもフィーチャーしているなど従来とは多少サウンドのイメージが異なりますが、基本的には展開の派手なネオ・バロック路線は継承されています。端正なピアノに導かれて始まるタイトル曲 "La piazza" から艶やかなストリングスの調べが中世のイタリアに連れて行ってくれるかのようです。あいかわらずオーボエが活躍しており、特徴のある音色でリードをとる曲が多いのが売りの一つとなっています。アコースティック・ギターの爪弾きで始まる "Luna in laguna" では包み込むようなストリングスが夢想的な雰囲気を醸し出しています。ラストの "Sinfonia corale" は Bach の曲をアレンジした組曲で、ストリングスと混声コーラスによる荘厳な雰囲気を漂わせた7分近い大作になっています。ちなみに私の持っているCDはドイツ盤で、無粋にもブックレットにニュー・アルバムの文字が直接印刷してあります。

Fucci

Claudio Fucci / Claudio Fucci (1974) Trident Records, TRI 1007. (全8曲)

幻の Trident レーベルの7番 Claudio Fucci の唯一のアルバムがCD化再発されました。全曲彼自身の作詞・作曲で、アコースティック&クラシック・ギターも弾いています。また、Eugenio Finardi がプロデュースを担当しており、ハーモニカにムーグさらにはヴィブラフォンで演奏にも参加しています。基本的にはアコースティック・ギターの弾き語りを中心にしたシンプルなサウンドですが、彼の穏やかながらも狂気を内包したかような独特の唱法とそれを盛り上げているバックの熱のこもった演奏が当時のプログレ色の強かったシーンを彷彿とさせます。ギターのコード・カッティングに導かれるオープニングの "La tua vita" は中間部で Finardi の奏でるハーモニカをフィーチャーしたフォーク・ロック調の曲です。"La nostra primavera" は軽快なコンガによるリズムに乗せて囁くように歌われる佳曲で、Finardi によるヴィブラフォンが同レーベルの Semiramis を想起させるような効果を醸し出しています。タイプとしては Ivan Graziani に近いものを感じさせ、一作で消えてしまうには惜しいアーティストだと思います。

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