Musicadentro

第90号 (10/02/2008)

寒さも益々本格的になっていますが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。今回は Pooh の新作カバー・アルバムと昨年晩秋にリリースされた新作を中心にお送りします。

アルバム・カバー

アーティスト名 / アルバム・タイトル (リリース年) レーベル名, レコード番号. (収録曲数)

ReGeneration

Pooh / Beat ReGeneration (2008) Atlantic, 5051442637120. (全12曲)

イタリアの国民的ロック・バンド Pooh の最新作は'60年代半ば〜'70年代初頭にイタリアでヒットしたビート・バンドの曲のカバー・アルバムとなりました。収録曲12曲中7曲は英米の曲がオ リジナルのカバー曲だったりするのが当時の時代背景を物語っています。いかにも彼ららしいコーラスで始まるオープニングの "È la pioggia che va" をはじめどの曲も原曲の雰囲気を残しつつも、特徴的なアレンジやヴォーカル・アンサンブルによって Pooh らしさが全面に出た作品となっています。ハードな音色のギターをフィーチャーした The Animals の「朝日の当たる家」のカバー "La Casa del sole" やドリーミィなアレンジの Bee Gees の "To love sombody" のカバー "Così ti amo" といった日本でも原曲が有名なものから、アカペラのコーラスで始まる Formura Tre の "Eppur mi son scordato di te" や ゲストで Orme の Aldo Tagliapietra がシタールを弾いている Equipe 84 の "29 settembre"、Dodi がフェイク気味に歌う Equipe 84 の "Nel cuore e nell'anima" といった Battisti - Mogol コンビの作品など当時の時代背景を感じさせる絶妙の選曲となっています。ラストはチェンバー・ロック的なアコースティク・アレンジによる Orme の小曲 "Gioco di bimba" で締めくくっています。パッケージはブックレットを綴じ込んだデジパック仕様で、ディスクのレーベル面はアナログ・レコードを模したものとなっています。

Fanno

Marco Conidi / Miracoli non se ne fanno (2007) Club 66 Factory Record, US 207/CD. (全11曲) CD-Text

1989年にデビューした Roma 出身のカンタウトーレ Marco Conidi の9作目となるニュー・アルバム。全作詞と共作ながら全曲の作曲も自身で手掛けています。オープニングの "La stazione davanti al mare" はブルース色のあるフォーク・ロック作品で、泥臭いメロディを少ししゃがれた渋味のある歌声で聴かせてくれます。続く "Il canto delle nuvole" は囁くような出だしから一気に盛り上がっていくドラマティックな展開を聴かせるバラードとなっています。管楽器が活躍する "Ti do di me" ではジャズ的なアプローチによって情熱的な歌声とクールな演奏との対比が印象的です。アルバム・タイトル曲の "Miracoli non se ne fanno" ではリズミカルなアクセントを付けたバッキングに乗せて軽やかなヴォーカルを聴かせてくれます。端正なピアノの調べに導かれて始まる "Camminando a stelle spente" ではしっとりとしたメロディを切々と歌い上げています。アルバム・ラストの叙情的なメロディを優しい歌声を聴かせる小品 "Che cosè" の後にはボーナス・トラックとして重厚な音色のピアノに導かれて始まり、厳かなコーラスを従えて宗教的なメロディを歌い上げる "Mamma Roma" が収録されています。

Adrenalina

Finley / Adrenalina (2007) Free Music Indipendent, 0946 398027 08. (全12曲)

4人組の若手ロック・バンド Finley のセカンド・アルバム。メンバーは Marco "Pedro" Pedretti (vo), Carmine "Ka" Ruggiero (g, vo), Stefano "Ste" Mantegazza (b, vo), Danilo "Dani" Calvio (ds, vo) で、前作同様全曲4人の共作ということになっています。スピード感のあるパンキッシュな演奏によるオープニングの "Niente da perdere" からポップで爽快感のあるロック・サウンドを聴かせてくれます。ベースの重厚なリフに導かれたタイトル曲 "Adrenalina" では畳み掛けるような演奏に乗せてコーラスを多用した爽やかなヴォーカルを聴くことができます。ディストーションのかかったギターによるイントロが印象的 な"Qui per voi" は清涼感のある歌声で切々と歌い上げるミドル・テンポのバラードです。歪んだ音色のギターと畳み掛けるようなドラムに導かれた "Veleno" ではエフェクトのかかった無機質なヴォーカルと肉体感に溢れる演奏との対比が印象的です。全体的に曲調のバリエーションに乏しく、どの曲も同じように感じ られる傾向はありますが、前作の成功の勢いを持続した若手らしいスピード感のある作品に仕上がっています。

Tempora

Paolo Simoni / mala tempora (2007) Atlantic, 5051442189728. (全12曲)

1985年生まれで Ferrara 近郊の Comacchio 出身の新人カンタウトーレ Paolo Simoni のデビュー・アルバム。ほぼ全曲作詞作曲で、自身でピアノ・ギター・サックスも演奏するなど多才なところを見せてくれます。オープニングとラストに同じ テーマを持った曲を配したトータルなイメージを持った作品になっています。オープニングのインストの小品 "Pianeta Wonder..." に続いて始まる "L'elefante e il topo" からアコースティック楽器の音色を生かしたジャズの影響を感じさせる渋めのフォーク・ロックを聴かせてくれます。クラリネットに導かれて始まる "Vade retro!" では早口でまくし立てるようなヴォーカルとクールでジャージーな演奏との対比が印象的です。"Scatta la fotografia" では弦楽四重奏をバックにフォーク・ロック色の強い語りかけるようなヴォーカルを聴かせてくれます。アルバム・タイトル曲の "Mala tempora" では所々電子的な効果音を交えつつ、カンタウトーレらしいフォーク色のある歌を聴かせる不思議な雰囲気を持った曲です。アクセントを付けたリズミカルな演 奏をバックにした "Pensi sia jazz?" ではまくし立てるようなヴォーカルとコミカルな管楽器との絡みが印象的です。ラストの "Pianeta wonderful" は再びオープニングのテーマを用いてゆったりとしたリズムに乗せた穏やかなヴォーカル・ナンバーに仕上げています。

Arre'

Lautari / Arre' (2007) Narciso, NRCD002. (全11曲)

1990年にアルバム・デビューした Sicilia 州 Catania 出身のフォーク・グループ Lautari の最新作となる6thアルバム。メンバーは Puccio Castrogiovanni (vo, mandolin, accordion), Roberto Fuzio (g, tamburello, vo), Gionni Allegra (contrabass, vo), Salvo Farruggio (ds, el-p), Enrico Luca (sax, flute), Daniele Zappalà (tp, vo) の6人で、自作曲を中心にトラッドやカバー曲を取り入れて演奏しています。オープニングの "Ju non sugnu 'n pueta" では軽快でフォークタッチなメロディをフルートなどによる優雅なオブリガートとパーカッシブなバッキングに乗せて淡々と歌い上げています。畳み掛けるよう な演奏に乗せてトラッド色の強い歌唱を聴かせる "Arrivannu 'e munticeddi" ではフォーク系のグループでは珍しいトランペット・ソロを聴くことができます。Domenico Modugno のカバー曲 "Malarazza" では同郷の Carmen Consoli をゲスト・ヴォーカルに迎えて Sicilia 方言によるデュエットで郷愁を誘うようなメロディを歌い上げています。"Chanson de Roland (Soldati)" では古いイタリア映画の挿入曲のようなノスタルジーを感じさせるメロディに乗せてまくし立てるようなヴォーカルを披露しています。アコーディオンとフルー トが活躍するトラッド曲の "Cantu di la curuna" では Rita Botto をゲスト・ヴォーカルに迎えてトラッド色の強い泥臭い歌唱を聴くことができます。

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